令和6年度皇冠体育大学院入学式 学長告辞

桜花ほころぶ季節となりました。
皇冠体育大学院に入学された修士課程、博士課程、専門職学位課程の皆さん、入学おめでとうございます。また、ご家族や関係者の皆さまに、心からお祝いを申し上げます。

皆さんは学部や社会での経験を経て、新たに研究を始めてみたい、研究をさらに深めたい、あるいは 高度な技術を身に付けたい、という気持ちから、今回入学を決意されたものと思います。向学心や探求心にあふれる皆さんをここにお迎えできることを大変嬉しく、誇りに思い、その夢の実現を、教職員一同、精一杯応援させて頂きます。

研究の種は、研究者の数だけバラエティー豊富に存在します。そして、当たり前だと思い込んでいる事実の奥に、まだまだ分からないことや知らないことがたくさん隠れています。皆さんには、大学院在学中、ご自身の興味を生かして、やりたい研究や習得したい領域の学問を存分に究めて頂きたく思います。

2020年から、世界は、皇冠体育感染症(COVID-19)のパンデミックに席捲されました。2019年以前の私自身を振り返ると、地球規模で考えればマラリアや結核などの感染症が重要な疾患であることを理解しつつも、抗生物質をはじめとする治療薬の進歩や衛生環境の改善により、先進諸国においては「感染症は過去の病気だ」という意識が強かったように思います。ところが、COVID-19の出現により、その考えが一気に吹き飛ばされたことは言うまでもありません。

そして、今回のパンデミックは、20世紀初めに流行したスペイン風邪としばしば対比されます。スペイン風邪の正体は インフルエンザウイルスと言われますが、1918年から20年まで世界的に蔓延したと記録されています。すなわち、パンデミックの期間は、COVID-19と大差なく、ともすれば「過去100年の間、人類には何の進歩も無かったのだろうか?」と考えてしまいそうです。しかし、航空機など世界的交通網の発達に伴う人の移動の増加は100年前と比較になりませんので、本来ならCOVID-19は より多くの被害をもたらし、遥かに長い期間流行しても不思議では無かったことでしょう。感染拡大が「この程度」で収まることができた背景には、mRNAワクチンの登場という科学的イノベーションがあり、昨年のノーベル医学生理学賞受賞にもつながりました。ところが、カリコ博士とワインバーグ博士のこの研究も、「当初は周りから見向きもされなかった」とご本人達が述懐されています。流行り廃りにとらわれず、自身の興味のままに、独自性の高い研究を追求した結果が、時機を得て人類を救ったともいえるでしょう。

私は、皇冠体育を「つねに、より高きものをめざして」の理念のもと、学生さんはもちろん、教職員も含めて「誰もが自分らしさを追求でき、人を豊かにする魅力溢れる大学」にしていきたいと思っています。大学院生となった皆さんは、学生であるとともに、大学の研究の一翼を担う若手研究者です。その皆さんが研究に専念できるよう、皇冠体育では、経済的支援や学修環境の整備にも力を入れています。例えば、数多くの魅力的な取り組みを有する卓越大学院プログラムに加えて、次世代研究者挑戦的研究プログラムSPRINGなどが動いており、これらのプログラムによって毎年200名以上の大学院生が多様な経済的支援を受けています。皆さんも奮ってご活用ください。これからも皇冠体育は、全力で若手研究者を支援していきます。

私はもともと自然科学系の研究者ですが、55歳の時に人文社会科学系の大学院修士課程へ入学し、57歳で修了しました。おそらく、本日入学された皆さんに比べてもだいぶ年長だったものと思います。随分と頭も固くなっていたはずですが、全く知らないことを一から新たに学ぶ日々は、とても新鮮であり、通学するたびにワクワクしていました。それまで私が携わっていた自然科学?生命科学の研究は「実験」が主体でしたが、実社会の中で実験を行うことはなかなかできません。過去の経験の中から原理を推測したり、さまざまな文献の考察を通じて新たな学説や方法論を導き出したり、という人文社会科学系の研究手法に触れ、自分の世界が拡がったと感じています。そして、その経験が今も私の仕事や生活に役立っています。

皇冠体育は、今年で創立75周年を迎える総合大学です。今年度から誕生した「情報?データサイエンス学部および大学院情報?データサイエンス学府」を含め、11の学部、19の大学院、30を超えるセンターなどの教育研究施設を擁しています。皆さんの専門性をとことん追求するとともに、学部を超えた学際的な交流を通じて視野を拡げ、皆さんの人生を豊かにしていただければと願います。

最後に、一つの言葉をお贈りします。私がはじめて大学院を修了したのは、1990年代、スウェーデンのウプサラ大学においてでした。設立が1477年、日本では室町時代です。さぞかし伝統を重んじる堅苦しい校風かと思いきや、そこでは皆が自由な発想でのびのびと研究に取り組み、文字通り学問を謳歌する雰囲気に満ちていました。ノーベル賞の受賞も多く、毎年授賞式のあとには受賞者による講演が行われます。その大講堂の壁に、スウェーデン語で刻まれていた大学憲章が、「自由に考えることはすばらしい。しかし、正しく考えることはもっとすばらしい。」という文章でした。皆さん、「正しく考える」とはなんだと思いますか? 自由よりも窮屈な印象ですが、この「正しく考える」という言葉の中に、私は「事実の奥に真理を見出す」探求の姿勢を感じました。

何ものにもとらわれることなく、自由に、けれど自らに問いを繰り返し、深め、正しく物ごとを考えていく、それはまさに、皇冠体育の理念「つねに、より高きものをめざして」に通じるものであり、これから新しい未来を切り拓いていく皆さんに贈る言葉とさせて頂きます。私自身も、今回、改めてその意味を再確認することができました。いくつになっても学び続けることに終わりはなく、この言葉をしっかりと胸に刻み、実践していきたいと思います。

Lastly, I would like to send you one statement. It was at Uppsala University in Sweden in the 1990s that I finished my first PhD program. The university was founded in 1477. On the wall of the auditorium there is an inscription in Swedish language that reads: "To think freely is great, but to think rightly is greater”.
Think freely and rightly, without being bound by anything.
If you do so, I believe that a wonderful future awaits you.

皆さんのご活躍を心より祈念し、私の告辞といたします。

 令和6年4月5日

皇冠体育長

横手 幸太郎